月曜日

東大教員として最後の講義の日だった。

3限は大学院生向けの特異摂動論入門:今日は、(リンドステッド)ポアンカレーの方法。いわば元祖であるし、方法は究めて単純だが、いろいろなエッセンスが埋まっている。歴史的には、このポアンカレーの方法を色々な流儀で再定式化して発展していったといってもよいかもしれない。1時間で説明を終えて、注釈と質問で残りの時間をとったが...、あぁ、今から思うと答え方がまずい。高橋君の質問に関して有限次元で例がつくれるではないか...。うーんん。僕が昔やったときは有限次元はイメージわかなかったのでなぜかそっちに向かわなかった。面白そうなのでやってみようか。また答える途中の説明は少しおかしかった。後日、訂正をいれないといけない。白石君の質問に対する答えも誤解を招く答え方だった。僕のあの答え方なら、白石君は次の質問をパッと打って僕を殺さないといけない。次回に補足をいれます。

特異摂動については、僕がM2のとき蔵本さんが集中セミナー(3時間x 2 くらい?)で系統的に勉強したのが記憶に強く残っている。そのセミナーではポアンカレーの方法とかはとばして、僕の講義だと次回やる「ぼごりゅうーぼふの方法」のアレンジ版をやっていた。その説明をしたとき、富田和久さんが「その方法だと永年項を消すというのがどういう風に入っているのですか?」という質問をされた。(富田さんはポアンカレーの方法を念頭においていたのだろう。)そのときの蔵本さんの答えも記憶しているが、その答え方は的確ではない、と今なら分かる。[僕もとっさの答えはダメダメなので難しいのもよくわかる。](研究室セミナーでのやりとりだが、僕のそういうエピソード記憶は変かもしれない。)僕が蔵本さんにした質問もいくつか覚えているが、まぁ、どうでもよい質問ばかりだな。それに比べてこの講義(今日で3回目)での皆さんのこれまでの質問は、すばらしいものが多い。

2限は3年生向けの流体力学でカークウッドの定理の証明。どの論文や本でもみたことないコンパクトな証明ができたつもりでそれを紹介する。証明を3つに分け、第一段階、第2段階を終え、第3段階で綺麗に大団円を迎えるはずが...これとこれがキャンセルして...キャンセルして...頭の中でぐるぐる風車がまわる。キャンセルしないじゃん!係数1/3 が違う。 10分くらい皆と考えても分からないので、レポートにした。「係数1/3の謎を明らかにし、正しい証明を書け」なんということだ。実は、3限の講義の準備をしているときも一旦計算して、計算結果があっているかどうかネットで調べて、符号と係数が2倍違うことを確認して、計算を見直したのだった。カークウッドの定理については、読める形で書いてある文献を知らないので落とし穴があったか。。。将来はレビュー論文でも書いておこう。

学部3年生に何という講義をやっているかと思うかもしれないけれど、計算手数はそんなに多くないし、概念的には無茶苦茶大事なことだと思っている。流れにそってミクロな配置が平衡分布に従うならば流体方程式が厳密にオイラー方程式になることは全ての物理学科学部生が理解した方がいいと思うけどなぁ。(短距離相互作用系ならば希薄であろうとなかろうと正しい。)

最後の20分でその美しいオイラー方程式が管の中の水の流れを記述しないことを説明して、何が起こっているんだ? という問題提起をして次回につなぐ。