金曜日

イベント終了。僕にとっては今日がメインセッション。昼食をはさんで8時間。何の予定もプログラムもなく、10時集合ね..とだけ伝えてあった。(そういう NO PLAN の熱力学セッションと早川さん宮崎さんが組織してくれたガラスセッションのパラレル)

10時。ゴングが鳴ると、「熱力学の非平衡への拡張に関する問題を整理しよう。」と黒板に書いていく。くりすちゃん、かれる、やりふ、中川さんから色々な声があがるのをひろいながら、黒板がぎっしり埋まった。くりすちゃんが横にあったホワイトボードに、「よし、問題リストを書こう」と黒板から問題をひろっていく。問題の確認だけで約1コマ。最終的に10の問題があがった(どこかで公開する予定。)

まずは、過剰エントロピー生成の定義をめぐって。僕は疲れたので、「かれる、くりすちゃんとかれるの流儀の過剰エントロピーを説明してよ。それ見ながら、それまでの流儀を補足するから。」と無茶ぶり。かれるがためらって、かもーんん、、といっても来てくれないので、「じゃぁ、中山さん、理解している?」と無茶ブリその2。中山さんが説明しようとしても、KNSTがないと説明しにくい...と、、見かねたくりすちゃんが、「まず、KNSTとエントロピー生成最小原理の関係から。。かれる。。」といってもかれるがうごかないので、くりすちゃんが説明に立つ。KNST overdamped version は、エントロピー生成最小原理に他らないこと、それを線形応答領域からはずれて考えるためには、修正されたエントロピー生成最小原理を考えて、それに対応した修正KNSTを考えればよいことだと説明する。なるほど。。前に聞いたときはDV経由だったので却って構造がみにくくなっていたのか。ただし、これに意味があるかどうかは全く不明。また、underdamped version の対称化シャノンは色々やっても綺麗に理解できない...

で、どこでどう跳んだのか忘れたけど、マクロな決定方程式で過剰熱を考える話をくりすちゃんたちがやっていて、その場合にはシャノンでなくて云々。ぐらんすどるふ=ぷりごじんのエントロピー生成最小原理はもともとマクロ現象論で理解されていたので、そこに向かうのは自然だが、僕たちはずっとミクロから考えるのが最近の流れだったので、色々と混乱しながら議論。(あくる日追記:20世紀に聞いた大野さんの素朴な話(線形ダイナミクス)でもそのあたりは出ていたが、大野さんの話は単純化しすぎいていて、それでは何も分からんので具体的に...というのがそもそも定常状態熱力学をやる出発点だった。そして、2000年にくりす(=じゃるじんすきー)のところにいって、Hatano-Sasaを論文投稿前に喋って、凄くもりあがって、何が予言できるか考えよう... と、彼の家でやっていたのが、まさにくりすちゃんが書いていた設定だった。それはそれでやっていたのだけど、自明な場合を除いて意味のあることがいえずにいた。。)20世紀に戻ろうというのが、今回の目的のひとつだったが、全くもって再考すべき。。

次に、第2法則や変数の選択について。これは、平衡系でも理解は十分でない。この問題が難しいのは、何を前提にした何をでるのか、という集まりの全体を把握していないと、とある部分に焦点をあてたとき、その焦点の位置づけが共有できないことにある。(それゆえに、理解しようという意図を持たない人たちとは、往々にして不毛な話になることも多い。)
まじめに考え始めて20年近くになるが、僕も全てのポイントを高い精度で抑えているわけではない。今回、水曜日に、この話をくりすちゃんから聞いて、なるほど、第2法則と変数の選択の問題は、この観点からみると自然にみえてくるし、理解の方向性として正しい気がした。しかし、数理物理研究者は証明してなんぼなので、そのために犠牲にしたのも多く、(それを仮定してしまったら、あとはテクニカルじゃん)という論旨になっているように僕には思えた。今の問題のエッセンスだけ簡単化すると、例えば、「流体方程式の存在を仮定すると、2回目の第2法則が示せるよ」というような話がくりすちゃんたちの論旨。(流体に限定すると、学部生レベルの自明な話。)じゃぁ、その仮定はどうやって導くの?と聞くと、それはもっと難しいし系に依存する、という答えになっている。その仮定は自然だ、とかれるやくりすちゃんがいっても、確かに自然だし受け入れるけど、それをいったら第2法則そのものだって自然なので、何と何の関係をつなぐかという問題でいうとまだ最終ではない...と。(僕は途中の進展も認めている。例えば、J等式から第2法則だって進歩だと思っているし、レナードの話も進歩だと思っている。その上で、それらのどこが足りていないのかを理解すべき。くりすちゃんたちの話も同様で進歩だと思っているけど、その上で何が不満なのか。「導出しにくいものを先に仮定して、それよりはやさしいことを導く論旨」は絶対に最後まで残らないし、それは僕のいう理解ではない。 )

勿論、流体方程式を出したり、第2法則を出したりするのは、前提条件に依存するので、そこに壁があるのは事実だけれど、理解しているところから出発するというのが僕には自然な第一歩なので、(くりすちゃんたちとは違って)初期に何からしらの統計分布を仮定した上で、それでどこまで言えるのか、というのを木曜日の朝に頭で考えていた。それを黒板で書いていった。勿論まだまともに計算したわけではないので、結果はないが、具体的に議論して理解を深めるには、そのようなことが不可欠だと思っている。(勿論、「その分布に意味がない。例えば、δ関数でもよくて....」とか、くりすちゃんから猛攻撃を受けたが、僕はその問題は自分の範囲で考え抜いていたので、δ関数でもよくて...と彼がいった理由も完全に理解していたので、説明を試みるが..ハードであった。彼は彼の哲学で世界を見ているので、それ以外のアプローチは理解しづらい、というのも分かるが、ともかく僕の問題を喋るところまでは言った。僕がやりたい問題は伝わったと思うけれど、いずれにしても、結果を出さないとダメだね。。ちょっと考えよう。

最後に、pure非平衡力について。これは問題の本質的なことと関わる。いわゆる局所平衡の熱力学力以外の「pure」非平衡力をどのように取り出すか。くりすちゃんたちは僕たちの仕事(Sasa-Tasaki)を知ってか知らずか、極めて似た設定(同じではない)で、浸透圧をみることで非平衡エントロピーを捉えようとしていた。(post doc が数値実験でやっていたのだけど、失望する結果しかない。つまり、小さすぎる。)僕は、10年前に数値実験もして、そのためだけにMDをマスターしたのだが、僕が制御できる範囲では確定的なことは言えなかった。(おそらく「非平衡力がある」のは間違いない。ただ、誤差の制御ができるほど大きくなくて、それが期待される熱力学に従うかどうかが分からない。(注:正当な設定を用意できない、ということをもって、期待される熱力学が存在しない、というのは論理的な誤り。)この数値実験の試みは、世界で僕しかやっていないと思っていたので、10年後に(今のところ同じような結論にせよ)それが別のところではじまったのは感慨深い。僕の数値実験の末期では、異方性粒子をつかって非平衡性を強くしようと頑張っていたが、それと同じことをベルギーでやっていたとは...涙が出そうだ。(=この話は、初日の夕食のときに聞いたのだけど。)議論では、浸透圧はダメなので浸透圧以外で何かできないか、あるいは、化学反応系の定常状態ならどうか、、、そもそも「非平衡性の強さ」を何でみるのがいいか、それを制御するにはどうすればいいか、もっとも適切な実験系は何か。。全て10年前に死ぬほど考えたことだ。10年というのは途方もなく長いが、あのときできないままだったことを死ぬまでにもう一回くらいはやるべきだと思う。

全くの余談だが、かれるはSTAP細胞を知っていたが、くりすちゃんは知らなかった。STAP細胞の説明をすると、すぐに、「そういうことはあっていいと考えていた」と即答して、「偽造だった」と言うと残念そうにしていた。細胞分化の制御は、理論的にも手が届きそうかもしれなくて、かつ、極めて面白いトピックである。所詮は化学反応系が箱(細胞)に入っているだけなんだから、、とは思うけど、勿論、そう簡単ではない。(pureな非平衡力を捕まえるよりは難しい。)金子さんの20年近い研究をもってしても中々...。