土曜日

今日こそは、本の原稿を書かねばならない、と思っていたが、所用で外出して歩いているときに、これまでのことを反芻していた。今抱えている難しい問題は、知りたい問題にとって本質的ではない。これは摂動で攻略できなくてもいいので、さっさと捨てて、見たい問にストレートな設定にすべきだ。そういう方針で全体を見直す。何はともあれ、確実な数値実験でシャープに理解しないといけない。それがあってこそのターゲットである。帰宅してゼロからプログラムを書く。

例えば、10次元ヒルベルト空間の部分系が二つ独立していて、異なる温度の平衡状態にある。相互作用をさせてその後の変化をおっかける。100次元ヒルベルト空間のダイナミクスになる。計算時間2分くらいで、色々なことが分かる。例えば、システムを固定して、相互作用の強さを0から系統的に変化する。分かってしまえば当然のことなのだが、ある強さまではそもそもぶるぶるしているだけで緩和のかけらもない。あるところを超えると、「やや緩和」するが、平衡状態には届かない。さらにあるところを超えると、エネルギー配分については正しく平衡状態になるように緩和する。(100次元空間はまだ小さいのだが。)こういう姿を的確に捉えるのも実は大変苦労していたのである。[ハミルトニアンの設定とか。ちなみに、LAPACKは使っていない。LAPACK使えば瞬時に分かることも多いが、逆にそのせいであれこれ考えなくなる。LAPACKなしで、つまり、ハミルトニアンを対角化をさせずに巨大次元ヒルベルト空間ダイナミクスを議論をしようとすると、自然と頭をつかうので大事なことが分かってくるのである。1000次元のヒルベルト空間ダイナミクスまでは苦もなく見れるはず。(1000次元といっても、スピン換算だとたったの5つのスピンが部分系をつくって、それらが相互作用しているに過ぎない。熱力学極限にはほど遠いが...。)]

さてと、これでターゲットが分かったので、理論を考え直す。素朴な弱結合(van Hove極限)は全くのスカだった。おそるべしである。夏の学校の講義録のサプリで形式的なノートを張り付けたが、解説に「例題を通して考える必要がある」と書いたとおり、あの形式的な議論ではダメなのである。(ちなみに、60年代の議論はもっと形式的で、もっとだめ。)当面、1000次元のヒルベルト空間での熱接触での緩和過程を正確に記述する理論をつくる。どこをどう修正すればいいのか、何となくはわかっているので、いこう。(極限の取り方の問題でいいはず。)