木曜日

プレプリント公開。

この論文の著者は、板倉(KEK)=大久保(物性研)=佐々(駒場)で学問背景も研究組織も違う。こういうタイプの組み合わせは、日本ではほとんどないと思う。しかし、そもそも理論物理をやっていく上で手法的に共通する部分は多々あり、対象はさておき理論的技術についての議論には分野などあまり関係がない。そういうことを言葉でなく、素直な研究動機の延長上でうまくいったのがまず嬉しい。それぞれのサイドジョブ的位置づけだったため自然消滅の可能性も多々あったけれど、投稿まで到達できて本当によかった。

このおかしな組み合わせは、ここ から始まる。超簡単な例題(=この論文でもとりあげている)に対してサイズ展開でLangevin を出すと、文献で見たのと違っていて混乱した。全てを自分で勉強すればいいのだけれど、Doi-Peliti を勉強しなおす気力がなくて、知っていそうな人に教えてもらぇ-と。21世紀に入ってからのDoi-Peliti の展開を理解しているのは、日本では二人しかいなくて、板倉さんと大久保さんだろう。(他にいたらすいません。)

この日に宣言しているとおり、翌週からお二人とのやりとりが始まった。実際、お二人は多くのことを理解をされていて、僕はそれを順次消化していくだけだった。議論をするなかで論点が明らかにになり、(i) Doi-Peliti 経由のLangevin とはそもそも正しいのか?(数学的にいかがわしい箇所が随所にあるのでは?) (ii) 正しいならそれはどのような物理量に対するLangevin なのか? (iii) サイズ展開で得られるLangevinとの関係はどうなっているのか?

実際は、3つの論点(i)-(iii)が入り混じって、必ずしも最初からこのように分けられていたわけではないが、これらの答えを模索していたのは一貫していた。結局、この論文では、これらの問いに全て明晰な答えを与えている。

研究結果としては、(iii)に絡む点がとりわけ重要だ。[分断する必要はないけれど、ここへのメジャー貢献は大久保さんである。] これは、21世紀に入ってから立ち上がってきたCole-Hopf 変換とよばれる技法と関係する。結果としてはあっていそうなだが、普通に見れば論理的には相当におかしい処方箋だった。この”合理化”のために、サクレーグループ(じゅりおたち)がかなり奇妙な定式化も提案していた。この論文では、Cole-Hopf 変換の理論物理レベルでのfinal answer を与えている(と思っている)。計算技術だけれど、例えば、非平衡模型の計算にも使われ始めているし、大事な最先端的論点である。[実際、これを書いているときに、早速パリからコメントと質問群がやってきた。。さすがに1瞬でピントをあわせたか...。]

また、計算技術を離れても、ひとつの系に二つの正しい異なるランジュバン方程式があるという結果自体も面白く、技術に興味がなくても結果だけ眺めてもいいだろう。さらに、Doi-Peliti への最適な入門論文にもなっているので、これからDoi-Peliti を勉強したい人はまずこの論文を読むのがいいように思う。

このように、ひとつの論文で、いくつもの側面を持っているのも楽しい。