金曜日

太田=佐々論文:論旨は最終解答に到達した模様。一ヶ月前でも全く想像してなかった美しさでゴールしたようだ。

昨年の秋に太田君が盛岡学会で発表した内容が大元である。ランダムグラフ上ランダム磁場Ising の動力学を「えいやぁ」と扱うと有限次元力学系で近似できて、非自明な分岐構造を取り出せる、という話だった。定性的には良い感じだが、近似が入っているので定量的にはよくない。でも主眼は分岐構造を取り出すのだから、それでいいや、、と思っていた。

太田君は、勉強を重ね、分析をすすめ、「定量的にもかなりいい近似になっているだろう」力学系を構築してきた。(この構築にも見事なアイデアが入っている。)ただし、30変数微分方程式なので、分岐構造を抜くのは数値解析によるしかない。その部分もどんどん改良されて8月末には、標準形の数値構成といっていいくらいに綺麗な構造を抜きだしてきた。あまりにも綺麗なので、「この変数」を使って、さらに低次元化できるかと思ったけれど、それは全く途方もない。。

9月末から太田君の解析に対して僕が徹底的に論旨のシェープアップをはじめた。一時は、厳密かな、と思ったけれど、最後に残る仮定の出所がわからないので「近似」という判断に落ち着いた。時間無限では厳密っぽい気はするが、それは示せないままだった。ともかくその路線で論文化することになった。

僕が夜に倒れた11月2日の夕方、太田君は白板で、時間無限で厳密になっている説明をした。ぱっと聞いた感じだと、時間有限も含めていけているんではないか、、と思った。いずれにせよ、論旨をステップバイステップでチェックしよう、ということになった。

丁寧に論旨を確認するとやはり間違いがあって、そう簡単ではない。太田君とあれこれと修正案を模索する。途中から時間無限での厳密性は納得できたけれど、どうも時間有限は難しい。11月11日になってやっと突破口が見つかった。30変数力学系ではなく、いきなり1変数力学系に落としてしまう、、という荒業で、「そんな綺麗なことは間違いなく勘違いだろう」とまず思った。もしそれが本当なら1変数力学系だから分岐構造の詳細から何まで全て厳密に議論できる。それから3週間、幾度となく混乱しては修正を繰り返して、やっと昨日収束した。今日になって論旨をゆっくり考えても間違いがなさそうなので、最終解答宣言をしていいだろう。そして、驚くべきことに、その1変数は、8月末に標準形の数値構成として、太田君が発見論的に使っていたのと本質的に等価だった。

厳密に議論できるのだから簡単な問題と言えばそうだけれど、最後に到達した論旨は「非自明かつ簡潔」といっていいだろう。「えいやぁ」から始まって、試行錯誤を繰り返して、論旨をつめて、そして最後に、最初の段階からは絶対に到達できないようなところにジャンプしたのは、何とも楽しいプロセスだ。

油断せずに最後までやらないとね。。