木曜日

今日のメインイベントは、夕方にSpohn さんのoffice にいくこと。(立ち話的に)スライド原稿をみせながら説明しようかな、、と思っていたら、いきなり黒板を消して、さぁ、聞こう、とすわってしまった。ま、そうだよな。。いつも僕が院生にやっていることだもんな。

で、黒板talk の準備などはいっさいしていないが、プライベートな議論なので、ともかく喋りつづける。構成は頭の中にあったし、主張が明確なので、やりやすい。Komatsu=Nakagawa からはじめて、large deviationの説明、そして、できたてほやほや(?)のSST との関係の予告。(Spohn さんは一度田崎さんから SST の話を聞いている。)色々な質問もきわめて的確だったし、「これは面白いぞ!」というのがわかる顔つきのようにみえたから、よかったのだと思う。(It's very interesting! という言葉だけでない。)

デリダさんの講義は、行列積仮設を使って厳密に解く話。行列積仮設はいままでに何度か研究会などでみてきたので、門前の小僧的に、なんとなくの作法くらいは知ってきたのだが、例の相加性原理をだした話については、ちゃんと理解してなかった。(ローマグループのはある程度追いかけていたが。)今日も、説明は非常にわかりやすく、わかった気になった。そして、相加性原理のくだり、部分系の確率の積*因子についてmaxでなくてminをとる箇所について、今日はじめて理解した。そうか、数学としては、そういうからくりだったのか!無茶苦茶面白い。新しいことを学ぶという点では、(この滞在型研究会をとおして)今日の講義が今までのベストだった。しかし、なんだ、、これは、、。物理的意味がありそうなきれいな形がしているけど、途方もない。色々なことを説明の合間にいれて喋ってくれるので、講義中にいわなかった、ということはわからないのだろうな、、とは思いつつ、休み時間にその解釈について一応聞いてみる。「その解釈がわかったときこそ一般化ができるときだと思う。今のところ全くわからない。」が答えだった。

こうして、パリ特有の諸々がすすむなか、院生の皆さんからノートやらデータやら草稿やらが届く。また、福井さんからも、素晴らしいノートが届き、「わぉー」からはじまる返信をおくった。さらに、月曜日から、小松さん、中川さん、田崎さんとの激しいやりとりがあった。今のところ、激動の4日間になっているのだが、ここではパリの研究会のことを書いていて、紹介していなかった。上にちょっとほのめかしたことだし、ちゃんと書こう。

夏休みに、非平衡定常系でシャノンエントロピーを熱測定で決める公式をつくったことはここでも書いた。これは、コロイド多体系とかでは正しいのだけど、一般には成り立たないことをお盆過ぎに小松さん、中川さんに指摘されていた。(定常分布が時間反転操作に対して対称でない場合にだめ。)やけくそで、熱測定がきめれる新しいエントロピーを定義していたのだが、シャノンの他に時間反転速度との相対エントロピーが加わるなんかわかりにくいものだった。それになぁ、これだと熱測定にあう量を定義しただけで今一。[コロイド多体系では十分に意味があるけれど、熱伝導とかではスカ。来週の研究会では例題ありきで喋るので、難しいことはいわない。]

時は流れて、先週、その公式の別証を田崎さんがだしてきた。これはなるほど直観的にわかりやすい。そして、さらにその公式は、SST と相性がよさそうだ、、と。それが月曜日まで。ここで、「直観」が曲者であった。「直観」などという言葉は、修行をつんでつんでつんでやっと獲得するものであり、僕はまだこの問題にそれほどなじんでいない。直観ではなくて刹那的応答というのが正しかった。

実は、中川さんが、僕と田崎さんのエントロピーって等しいのですか? ... と聞いてきて、そんなの自明や、、と答えていたのだけど、どうも雲行きが怪しい。断熱定理的なイメージがあったけれど、証明は断熱定理的なものと少し違う。だけど、右辺が同じ熱測定できまる量なんだから、僕と田崎さんの証明がふたつともあっていたら、当然、同じエントロピーになるはずである。しかし、直接一致することが示せない。。(うぎゃぁ状態。) これはいったんgive up して、ともかくふたりの証明がそれぞれあっていることを再確認する、、という地道なことはやっていた。(今日、小松さんからのメールで、このギャップが埋まったらしい。時差の関係で僕はこれからみるけれど、本日ふたつめの「わぉー」メールを返信する可能性大。皆が喜んでいるときにいなくて、ひとりあとから喜ぶのは、何かリズムがずれていやだな。)

ところで、こういう事態になったので、僕は、一旦、ふたつのエントロピーが一致する直接証明をあきらめて、全部があっているとして、次に示すべきことを考えていた。熱力学が熱力学たる所以は、「これ」だよな...。 「これ」があれば、全く非自明な実験結果を予言できるが...。さて、今、目前にある田崎さんのノートにある量たちは「これ」をみたしているのだろうか....。あれ?? いけそうな気がするけど...。でも式をぱっとみた刹那的応答ほどあてにならないことを↑の件で痛い目にあったばかりなので、慎重に質問メールをおくる。田崎さんからの、いけているよなぁ... ?? という、歓喜の答えでなくて、きょとんとした感じの答えがくる。このあたりで僕は研究所にいったので、まだ手をちゃんと動かしていない。

さて、、と、どうなるのでしょうか。もし、このほんわかしている「いけてるよなぁ?」が「いけてる!」にかわったとき、本人たちもびっくりの事態になるけれど。焦らず深呼吸しないといけない。続きは後日の日記にて。どういう事態になるのか、、うまくいったらもう少し丁寧に書きます。(Spohn さんには、もういけてることを前提にして喋ってしまった。まぁ、SST との関係については、丁寧に喋っていないので、嘘をついたわけではないけれど。)