金曜日

フロント:たとえば、ある場所で増殖反応がおこると、それが空間的に伝播していく。そのとき、反応がまさにおころうとしている場所(界面)のことをフロントとよぶ。その速度に関する問題は、population biology では歴史が古い。第一近似では、化学反応のrate equation を書いて、偏微分方程式の解析をすればいいのだが、それでもなかなか簡単ではない。

まず、任意の速度に対して、伝播解がある。安定性を調べると、ある臨界速度より大きい速度は全て線形安定である。つまり、線形安定な無限の伝播解がある。ところが、局在した初期条件から時間発展をとくと、ある特定の伝播解が選ばれている。そして、あるクラスのモデルでは、その伝播解は、安定解の限界に位置する解であることもわかった。このあたりは、70年代に既知であった。80年代にはいって、結晶成長等物理の文脈でこの問題が再論された。特に、解の選択の問題が面白い。(あるクラスのモデルで数学できちんとしめされたことを物理として広く適用しよう、とする)限界安定性仮説は、流行にもなったし、その数年後に、この延長上で、self-organized criticality という、より意味不明なものがもっと流行した。

グレンたちの研究は、「フロントの先端部分はどっちみち微妙だから、そこをいじったときにロバストな解が選択される」というアイデアの提示と実装である。これは、非常に気持ちがいいもので、「先端が物理を決めるから、先端について細かく考える」のと反対を向いている。残念ながら、グレンたちのアイデアを具体的に実装するのは容易ではなく、何かを計算するのには向いていない。

さて、この数年の間に、フロントの問題にも揺らぎが関わってきていた。たとえば、フロントの速度が揺らぎでどう影響されるか。揺らぎの強さをεとすると、速度の補正は εくらいか、、と想像できるが、なんと、1/(log ε)^2 らしい。この変な関数形はともかく、このような依存性を決める物理は何だろう、、というのが、問いである。Derrida たちが、一応、現象論的な議論でだしているが、まったく納得できない。

Derrida たちは、フロントの先端領域では、連続体記述が妥当でなく、つぶつぶが効いている、という直感から、上記の式をだしている。それはそれで、それなりの説得力はある。ただし、その路線をまともにするのは不可能であろうし、そもそも、つぶつぶが効いているのか?いや、反応がおこるかおこらないかのぎりぎりでは、分子一個というカットはあるかもしれないが、それとノイズ依存の式は似て非なるものだと僕には思えた。

あいまいな直感はあるけれど、どっちみちよくわからないので、ともかく2日前から、全部自分で計算しはじめた。線形安定な伝播解が無限個あることを確認し、グレンたちのアイデアの計算がさっきおわった。先端領域を担う反応をΔだけゆがめると、縮退がとけて、唯一伝播解が実現する。(このゆがめ方は、グレンが黒板に書いてくれた絵のままで、縮退をもっとも直感的に解く方法。)その伝播速度は、c_*-K/(log Δ)^2 であり、c_* は限界安定性仮説からきまる速度、K は定数。つまり、先端領域が少々かわっても、その速度の解だけが残ることがわかった*1

Derrida たちの考察は、先端部分では粒子の離散性がきいて、反応がおこらない、という仮説にもとづく。これは、先端部分に関する特定のゆがめたかたであり、濃度がΔより小さければ反応がおこらないモデルを考えることになる。このときに、伝播速度が上記の式になることが示されている。(ただし、定数Kの値は違う(12/31 訂正;Kの値は同じだった。);また、彼らの議論は、ほぼいいのだが、いくつかの点で気になることが残る。つめてないし、つめる気はない。)

このゆっくりとした収束の仕方は、ノイズに対する影響と同じである。ただし、これがそのままノイズの影響に読みかえれるわけではない。Derrida たちは、先端部分の修正をそのままノイズの議論と同一視しているが、そこの物理に喧嘩をうりたいわけである。先端部分では色々なことが影響する。だから、それに応じて、定数K の値が違い、異なった伝播速度がみえる。ミクロな詳細のうちに大事なものがあるわけではない、、、ということを信じてみる。そうでないと、今、僕らが3ヶ月扱っている問題につながっていかないし。

以上を踏まえて、ノイズの影響である。つづく。

*1:グレンよ。本来、ここまでグレンが計算しておくべきだった。具体的な例示は常に大事だぜよ。直感をより鍛えるだけでなく、収束の仕方の非直感的なことまでボーナスでついてくるのだから。