木曜日

振動数ω、振幅Aで振動する板にボールをおとす。重力加速度  g よりもずっと大きい加速度  Aω^2 で板を振動させるとき、衝突直後の速度 v は、衝突時刻  t の関数として、不規則に変動しながら、 v 〜 t^{1/3} にふるまう。(完全弾性衝突だとする。フェルミ加速と呼ばれる現象である。)定性的な理解は、1日考えればわかる、、はず。

不規則変動分をのぞいた 平均の v と t^{1/3} の比例係数を D とすると、このD をきめる規則(公式)を考えたい。カオスを勉強すれば、(特定の振動のさせ方に関しては厳密に、一般にはおそらく近似として)、ある写像系の Kolmogorov-Sinai entropy と Lyapunov 数からこの係数がきまることを予想するのは、難しくない。

しかし、数学の証明はないし、数値実験によってこの予想を論じた文献をみたことがない。数値実験としても難しいのは、このような系のKolmogorov-Sinai エントロピーの計算方法が確立していないからである。(Lyapunov 数による評価は使えない。)

まずは、この問題にとっかかりをあたえるために、数値的にこういう公式を確立することからはじめたい。(既知事項から推測される式が成り立つのは特殊ケースだけだろうが、もっとおおらかに量を定義することによって、汎用的な表現を得ることも可能だと思っている。)それは数学的に制御できる新しい話につながってほしいし、自由度が大きい物理系の非平衡現象の理解にもつながってほしい。

カオスの講義をすすめながら、ずっとこれが気になっているのだが、今年度は、林さんが、この問題に関係することにはまったので、はねる玉も同時にいじっている。今日は、講義の準備をはなれて、研究モードとして、この問題をどうつかまえていくか、という具体的な話をした。なかなかに楽しいアイデアがでた。昨日、不調だったので、気分がめいっていたが、やはり、研究で具体的なアイデアがでると楽しい。(林さんはカオスのど素人ながら、かなりの時間をとって、この系をじかにさわりながら考えているので、そういう人と話をすると、どんな文献を読むより刺激になる。僕がいつもいう現場感覚というやつ。)

イデアはまだ秘密だし、そもそもうまくいくかどうか全くわからないが、すくなくとも今日のアイデアは面白いし、寝る前までは生きている。