学会

1年前の学会は、中川=小松の発表に刺激をうけて、途中からその問題に集中しはじめた。半年前の学会は、2日目の夕方で帰らないといけなかったのだが、青森では、基本的に原田さんと集中議論をしていた(これが実を結んだことは何度もかいた)。今回の学会は、穏やかだな...と思っていたら、大きなイベントがまっていた。


2日目の午後に、吉森さんからいくつかのコメントをいただいた。そのうちのひとつは、弱canonical 性に関することで、「弱canonical 強すぎだなぁ」と冗談でいっていた。3日目の朝、吉森さんのコメントを自分の言葉で整理しなおす。1時間でノートができたので、その勢いで Langevin 多体系での厳密な例について考察をする。ありゃ?午後からの学会にでかけるどころでない。学会から帰ってきた田崎さんとメールのやりとりをし、日付がかわるころには、間違いが確定した。4日目、リフレッシュした頭でさらに考察をすすめ、状況を整理する。景色はみえてきたが、確定的なことをいうには手数がいる。具体的な間違いの内容については  学会講演の訂正をみていただきたい。


少し補足した方がいいと思う。これは、すでに論文出版されている、Hayashi-Sasa の数値実験の結果と関係している。操作と測定量をうまく指定すれば、NESS 下でもEinstein の揺らぎの関係式の拡張が成立しているという証拠をだしている。この数値実験の結果は捏造したわけでもないし、非常にいい精度で関係式が正しいのは間違いない。中村君がすすめているように、Langevin 多体系の外力駆動系でもこの関係式はおそらく検証されるだろう。そして、実際の実験でも検証されると信じている。(まずは流体効果を抑える必要はある。みたい素粒子反応をみるために、空からふりそそぐ宇宙線の多くを工夫して遮蔽するのと同じである。質的に新しい法則の有無を確認しようとするとき、徹底的に理想化する必要がある。)


しかし、話は簡単ではない。このように理想化した系でも、系の大きさを十分に大きくすると、Hayashi-Sasa でみている関係式が破れることは、簡単に予想がつく。長距離相関の存在である。揺らぎの理論で記述しているものと長距離相関を記述される部分との分離の仕方や移行の仕方については、全く理解していない。今のところ、理論的に Hayashi-Sasa を論じるには、長距離相関をうまく殺すしかない。Sasa-Tasaki のpreprintで導入している弱接触スキームはこの方針にたつものであり、DLGについては具体的に付録で議論した。その際に、重要な役割を果たすのが弱カノ二カル性だった。この時点での、弱カノニカル性は、長距離相関と共存しないものだった。


さて、今回の田崎さんの発表では、特別なモデルではあるけれど、長距離相関と弱カノにカル性の両方がみわたせるたたき台がある、というのも主張のひとつだった。(清水さんが鋭くコメントされたように、モデルに対するロバストネスの問題は難しいにしても、今まで考えることができなかった、長距離相関と揺らぎの関係式の整合性を具体的にみることができるようになることの意味は大きかった。)しかし、昨日のノートでは、特別なモデルでも、両方を綺麗にみわたすことはできないことがわかってしまったのである。



長距離相関と揺らぎの式をひとつ屋根の下におくことは、重要課題のひとつとしてありつづけているが、なかなか実をむすばない。やはりこのあたりで、こういうのを突破しないと迫力不足だな。(Derrida たちの additivity principle が普遍的にただしければ、SST + additivity principle --> large deviation funtional という美しい話になるのだが、彼らの原理の普遍性もなかなか苦しいところだしなぁ。)