土曜日

西宮湯川記念セミナー:進行表によると、14:00開始、5分オープニング(講師紹介など)、約90分講演、16:00頃終了、となっていた。講演を85分にするか、90分にするか土壇場まで迷って、西宮に向かう電車の中で85分路線にした。時間配分が難しいので、5章構成にして、1,2章で30分、3章で25分、4,5章で30分と3部に分けてそれぞれで時間を調整することにした。スライドはタイトルから章の扉から全部入れて67枚。勿論、式はない。時間配分はほぼ予定どおりで、きっちり85分、つまり、15:30に講演を終了させた。できる範囲でできることはやった。質問時間の30分も実に的確で有意義な質問が多数あった。僕の話方が悪かったところを補える機会をもらうことになった。講演の構成がまずかったところ、説明がまずかったところ、など色々と分かった。16:00に打ち切りになるまで質問が途絶えることがなかった。

最近、講義90分して研究室に戻ると疲れ果てることも多いが、普段の講義とは比較にならないくらい疲れた。慣れない、ということもあるし、頭の使い方も違う。緊張もあるかもしれない。(これはいつもだが。)科学ファンのような人たちが多かったと思う。おそらく雑誌等で、宇宙の何とかとか、超ひもがどうしたとか、を見ることは多くても、ゆらぎの話など見聞きすることは全くないだろう。どうやってもってくるのかあれこれ考えた。大学生向けや高校生向けの勉強なら道はあるが、そういう勉強は前には出さない。「科学の醍醐味」や「最近の発展」をどう説明しようにも、何に興味をもっていて何をしりたいのか、というのが分かりにくいからなぁ。

序章で、「人類の限界に関わる科学の理論」をテーマにする、というところまで、人工 vs 自然 の話からひっぱった。第2章の自然現象の基礎法則では、様々な基礎法則の中で、(予測不可能性を形式化する)カオスや(できないことを形式化する)熱力学第2法則などがあることを(具体例をあげて)紹介し、死んだ生き物を戻せるかどうか、もっと易しく、生物の部品がつくれるかどうかを、科学の基礎法則として議論される可能性を問う、として終わる。ここまでで30分。

ここで、おもむろに、セーターを脱ぐ。ピンクのワイシャツである。「ここからさらに気合をいれます!」

分子モーターを紹介して、普通のモーターとスケールの違いによって生じる「ゆらぎ」のこと、機能の理解の困難さ、デザイン原理の不明さなどを25分で説明する。途中で自分が関わった話を少しはさんだ。最後に、分子モーターが人工ではできない現状を「ジグゾーパズル」になぞらえて、物質 vs 情報にふって第4章にうつる。「考える営み」を形式化する計算論や情報論を説明しながら、物理の基礎法則との関係を問う。その手がかりとしてマシンと情報操作が絡んだデーモン問題を紹介する。(西宮市出身のさがわさんの写真をいれて3枚)。さらに、「パズルを解くこと」からP/NP問題を紹介して(これは4枚くらい)、「P/NP問題」的な要素を物質の基礎法則と統合するのが次の問題だとして4章を終わる。5章は、当面の問題を整理して、22世紀を想像して終わる。

流れ的にやや強引なところもあったが、「科学の醍醐味」の雰囲気は伝わったとは思う。2週連続のセミナーで、先週は「超ひも理論の最前線」だったので、「科学ファン」としては「超ひも」に惹かれる人も多いかもしれない。僕は自分が考えていることを心底面白いと思っているけれど、それに共感してくれる人がそんなに多くないだろう、ということも理解はしている。だから、とあるtwitterで「先週以上に面白かった」とつぶやいていたのを見つけたときは、やはり、嬉しかった。

講演の後半で喋った未来の話、キーワード的には、「物質と情報の統一理論」だが、これは真に頑張らないといけない。(デーモンは手がかりのひとつにすぎない。本当に大事なことはまだ分かっていない、と喋ったが、それは自分に向けた激励だったかもしれない。)そういう意味でも良かったな。

いずれにしても、こういう基礎科学の現状とか展望を大学外の方に向けて講演する機会を持てることは極めて貴重だと思う。準備は大変だったし、講演も疲れたし、自分の力不足もよく分かったが、自分にとっても大変有意義だった。

あぁ、エントロピー本を書かないといけない、とも痛感した。質問時間でエントロピーに関する質問がでて、説明をしたが、言葉だけなので多分うまく伝わっていない。