金曜日

朝、本部に向かって歩いているとき、「あれ、簡単になるやん」と思った。実は、最近、高圧下のCO_2のとある現象を考えている。質的に新しいだけでなく、本当だったら大きな転回点になるかもしれず、僕にしては珍しく「次元付きの」量を扱っている。原理的には絶対に解析できるはずだが、複雑なままで中々方針がたたずに往生していたのだが、分かれば簡単で、大幅に前進した。夜に手書きノートを書いたが、次の壁のところで止まっている。しかし、これでいろいろなことが具体的に議論できるはず。(まぁ、しかし、19世紀的な話だな。。きっと論文があるはずと思って、ちょくちょく調べているが、表だってはないなぁ。きっと誰かが議論していると思うんだけど。でも、僕たちの解析方法で先行研究があるとは思えないし、その現象そのものを実験で丁寧に調べたのもないと思うんだが。。。実験家との相談も何とか実現したい。)

トピックスは何とSST (Steady State Thermodynamics) である。20年前にはじめて、何度かもりあがり、何度か沈んだもの。今回は、現象論サイドから大きな変化をしている。まず、中川さんが、Sasa-Tasaki に内在する不備を(春に)指摘したことからはじまる。Sasa-Tasaki は、(熱力学でいうところの理想断熱材をどう用意するか)などの系の準備が素直でなく、かつ、現象についての定量性に欠いている、という批判は当初からあったし、それはよく理解していた。特に、後者を明らかにすべく、廃人寸前まで没頭した時期もあったが、どうも考えているような状況は普通は難しい、ということだった。中川さんの指摘は、そうではなくて、純粋に現象論の論理としての脆さだった。その指摘は素直に受け入れたが、そうすると、そもそもSST なんて無理だな、、という僕はほぼ逃走状態になっていた。5月になって、中川さんは、独自のSSTを構築しはじめた。ノートを見ただけだと意味不明だったが、6月には大体の方針と方向性を理解し、可能性としては面白いように思った。夏には、僕も細部を概ね理解した。しかし、(論理的には正しいけれど)、ぶっとんだ話で、何の意味があるのかわからない。その理論を公開しても、誰にも伝わらないだろうとは思っていた。[学会で中川さんが講演した内容がそれ。非平衡定常系で、局所平衡な記述にたって、大域的な熱力学を構築するという話。] そこで、その中川さんのSSTを使って「誰もが分かる質的に新しい現象」を提案できるかどうかが鍵だろう、と色々な案を模索したが、難しかった。平衡の近くで、そのSSTがないと理解できない現象なんてないようにも思った。

ところが、10/3に天からアイデアが降りてきた。ひょっとしたら、これなら。。。至急、中川さんと相談して、その現象をターゲットにして、そこに中川SST が成立しているかどうか、成立したとすると予言はどうなるのかを検討しはじめた。結果は、驚くことに成立し*1、かつ、その結果は9月中旬では全く考えられないことを現象として予言する。定性的な現象というだけでなく、定量的なことも議論できるので、具体的に高圧CO_2 の場合とかで計算しているわけである。中川SSTサイドの話は中川さんが詰めているが、僕は、中川SSTなしで検討を始めていた。基本的にこういう現象は19世紀的であり、別に、SST などなくても現象の予言はできるはずである。所詮、簡単な非平衡系... といっても、非平衡統計の無力感を味わう毎日だったが、やっと動き始めた、、ということである。純理論的には、連続場のパタン選択+非平衡統計+確率過程+特異摂動 という何というか、僕の歴史をそのままなぞるような解析のはずなので、ここで僕ができないのは、自分の人生を無にすることだよな、、と大げさには思っていた。(19世紀では絶対に答えられない、というのは早々に分かっていた。)

で、今、目前に式がある。これが中川SST なしで得られる結果のはず。ただ、この式と現象の間にはまだギャップがあってどんな現象を示すのか分からない。(数値積分とか何とか色々計算しないといけない。)その結果、実際に、予想している現象がおこって、かつ、中川SST の結果と一致していたら、驚くだろうな。よくわからない。(中川SST の方も具体的な現象を解析するためには、数値積分とかニュートン法とかつかいまくるから。)

*1:*成立とは、平衡熱力学の無矛盾な拡大を意味する。どの要請の下での拡大なのか、というのに依存する。ここでは基本関係式の拡大を言っている。ただし、無矛盾に拡大できたとしても一意とは限らないし、一意だとしても、自然現象がサポートしているかは分からない。いまの段階では、無矛盾性のレベル。それでも相当に非自明である。今は、数値積分等で基本関係式の拡大を確認しているが、原理的には、与えられた現象論の枠内で(正しいなら)それは示せるはず。それはまだできていない。また、拡大できるなら(ある条件下で)一意だろうな、ということを展開する論旨はある。