金曜日

GW明けのイベントラッシュの最後を飾る会議があって、疲れた。それでも、研究の議論が2件あって、大きな刺激を受けた。どちらも全く新しい着想にもとづいて面白いかもしれないことがでそうな感じになっている。
 ひとつは、定常状態熱力学(SST)。人生で何度か膨大な時間をとって考えてきたテーマだが、KNST 以降のトライアルで僕は敗北感があった。Hatano-Sasa を使った計算とか、そういう展開はあるけれど、熱力学の拡張自体はどうにもならないと思っていた。ところが、驚くことを中川さんから聞き、ノートを送ってもらっていた。何か所か論旨の間違いを見つけたのだが、不思議なことに、それらを修正しても結果は変わらない。(中川さんのノートはこれまでに何度もそういうことがあるのでこれらは平常運転。)まだ、完全に納得しているわけではないし、僕の検証は十分ではないが、ものすごく非自明で示唆的な結果になっているようだ。大体、ある種、SSTの基本的動機を根本から変えて再構成するのだが、この道が正しかったのかもしれない。2002年や2008年に自分の限界まで考えたと思っていたが、まだ考え切れていなかった。勿論、まだ完遂するかどうかわからないし、かりに、うまくいったとしても、「だから、どうした?」は残る。非自明な実験は提案できるけれど、それがどういう位置づけになるのかは別の話。いずれにしても、成りゆきが楽しみである。僕が関わってきたテーマというのを除いても、研究として僕が好きなパタンである。ただ、研究の着想は僕ではないし、非自明なジャンプをもたらしたアイデアも僕ではない。
 もうひとつは、確率過程へのくりこみ群RG。しかも、手法としては使い古された摂動的RG. 南さんが研究員としてあるテーマに取り組んでいたのだが、当初狙っていたところから脱線して、摂動的RGそのものと延々と戯れている。まだ、全体の風景がみえておらず、話をするたびに迷子になるのだが、少しづつ理解が増えてきている。しかし、摂動的RGに対して、こんなことを考えている − ということ自体が今のところ見たことも聞いたこともない。どういうゴールが待っているのかまだ確信できないのだが、これも研究としては好きなパタン。これは、研究の詳細は全て南さんで、脱線のきっかけになった発見も南さんによるもの。
 
こうしてみなさんの素晴らしい研究結果を聞いて、研究の方向性について議論したり、細部について議論して、楽しい時間を過ごす − というのはもちろんいいのだが、これで研究した気になってしまうのは、今の僕がもっとも恐れていることである。そういうシニア研究者だけにはなりたくない、とずっと思ってきたし、今も思っているので、楽しい反面焦りもでてきた。僕自身はGW中に没頭したことが敗北したまんまで、何とかしないといけない。そう思って、今日も夕食後はあれこれのたうっていた。論文を大量に読んだせいもあって、何となくの方針が生まれてきて、今日はかなり明晰な言葉で、「まず、これをする」「つぎに、これをする」という風に小問に分解できた。その第一問にとりかかっていて、何とかできそうなところで寝る時間になった。いけてくれぇー。変な話だが、研究者生命がかかっている。