火曜日

うーむ、聞いていた話と違うなぁ、、ということを経験中。何でもそうだがな。

バタバタしているなか、横倉さんとの論文「ネーター不変量としてのエントロピー」がPRLに掲載決定になった。APS では投稿したあとその論文がどういうstatus にあるネットで分かる。投稿して3日もしないうちに二つの査読が編集部に帰ってきた。その時点ではレポート内容は分からないが、編集者は3番目を召喚した。が、返事なく、結局、その2つの査読者でfirst round を終えた。どちらもpositve で、ネーター定理の歴史をもうちょっと補足すればよいだけだった。改訂版を送って終わりかと思ったら、編集部はさらに査読者ふたりを召喚した。これには凄く時間がかかって、かつ、でてきた査読レポートはかなり酷いものだった。negative なのだが、専門家的学術議論でもなく、(PRLによくある)一般的興味の議論でもなく、プレゼン上の議論なのだが、ちょっと驚くべきレポートだった。(そのうちのひとつは、これまでのワーストを更新した。「パラメータが時間依存するラグラジアン運動方程式はどうなっているのか」とか、そういう超絶初等的なコメントが書かれていて、それらが不明瞭なのでreject という内容だった。もうひとつもも相当ひどく、中途半端に微分幾何の言葉をふりかざして批判しつつ、ピントがあってないどころか、そもそも専門用語すら間違っている、、という。。(僕たちも、夏休みに解析力学の勉強をして、色々な文献(数学も含む)を読んだのだった。僕たちの論文ではそういう言葉はいっさい使っていないけれど。(僕の)数学の理解は完全ではないけれど、外国語として何とか聞こえる程度には消化したつもり。)

で、1月末に、second round として、reject の通知がきた。「淡々と対応すれば大丈夫ですよ。」と横倉さんには言いつつ、段々、立腹の度合が大きくなって、結局、翌日に怒りにまかせて手紙案を書いた。もちろん、それをそのまま出すのでなく、過激な言葉は丁寧な言葉に修正して、横倉さんとゆっくりと推敲していった。

実は、1月下旬に、横倉さんから驚くメールが来ていた。「普遍定数の存在に関する議論が大幅に簡単化できる」というものだった。特に、第3法則は不要で熱力学の議論だけで出せる、ということだった。その内容はすぐに確認して、確かに間違っていない、ということは納得した。編集部に手紙を書くときに、論文草稿のプレゼンも改善しよう、ということになって、横倉さんが原案を書いてくれた。(阪大のセミナー前に、中盤の議論を少し改善したのでそれも取り入れて。)その原案をみていると、さらに簡単化できることに気がついた。これで、おそらくミニマムになった。それをきちんと反映させる版をつくって、手紙もきちんと見直して、パリにいく直前にarXiv の入れ替えと編集部への手紙(および改訂版の再投稿)を終えた。

パリでは、この新しい簡潔な議論を強調し、何度も何度も喋った。そして新しい版のpreprintを紹介した。PRLからは3月の中旬頃に何らかの返事がきて、また、そこから戦うのかなぁ、と何となく思っていた。というところで、早々に返事がきて、逆転のacceptになった。

おかしなもので、1月末にreject がきて、そこからもう1回再投稿するチャンスを持てたことが、結果としては、すこぶるラッキーだった。もし、1月末に掲載決定になっていたなら、今の綺麗な版に到達するのはもっと後だったろうし、そもそもレターは不細工な版が出版されたことになる。パリでの議論もやや弱いものになっただろう。本当に不思議なことで、二人の査読者がおかしなことをいって、それを真に受けて編集部がreject をしてくれたのは、この進展を生むためだったのだろうか、とさえ思う。

勿論、これで終わりではない。むしろ、これからである。次の一手は色々模索しているし、ゼロでない知見もいくつかあるが、まだ暗闇感がある。この幸運をうまく生かして、5年後に楽しい世界があればいい。