金曜日

講義5日目:昨日と今日で非平衡等式の説明。昨日は、エントロピー生成を定義し、その大偏差関数の議論のあと、先にFT の結果だけ紹介する。FTは線形応答などの関係をすぐにだせるので有用という説明したあとで証明。今日は、虚心に証明だけをみると、「無限に」恒等式を作れることが分かる、という話をして、そのうち有用なのは、左辺と右辺がともに制御できる形でかけている場合だと説明する。その例として、hatano-sasa の2015版(NJP の付録で書いた奴)を紹介する。そして、その応用としての蔵本モデルの解析の流れだけを説明する。応用以降が40分になってしまい、圧縮されてしまった。もともと講義を6日に分解するとき、どうしてもこのあたりでひずみが生じることは分かっていた。昨日の夜にノートを書きなおして、何とかおさまるように再構成したのだが、窮屈になるとだめかなぁ。かといって、そういう応用をはずすと何のためにやっているのか見えないからなぁ。。昨日の講義も実は直前の30分で構成を変えた。ノートは準備していたのだが、これでは伝わらないと判断して、土壇場の変更になった。(これは変更して正解だったとは思う。)

夕方のチュートリアルは、流体方程式の紹介について。現象論的導出とその意義について話す。1時間で伝えれたメッセージとしてはかなり濃密だし、伝わった感がある。(講義の方はだんだんと伝わった感が減ってきている。顔をみている。)まず、対象をはっきり宣言する。単純流体を熱力学として特徴づける。次に、巨視的な流れをつくって記述する変数(5つの局所保存密度場)を導入する。そして、連続の式を書く。質量は流れだけで運ばれる。運動量カレントは流れによって直接運ばれる寄与とその他の寄与に分けられる。その他の解釈は「応力」であることはわかるが、それが局所保存場にどう依存しているのかはまだらない。エネルギーカレントは直接運ばれる寄与と応力でされる仕事とその他の寄与に分ける。(ここで「その他の寄与なんてないのでないか?」という質問がきて、大変盛り上がる。)その他の寄与の正体は説明しない。他方、流体の1点は熱力学が適用されるスケールであることに注意して、各点各時刻でエントロピー関数が定義されると仮定する。内部エネルギーを局所保存場から導入し、エントロピー場が局所保存場でかけることをみる。そして、全エントロピーの時間変化を考える。連続の式と熱力学の式を使うと、全エントロピーの時間変化は大変綺麗な形にまとめることができる。「全エントロピー変化はゼロじゃないか?」というやらせのような質問がきて、よし、ゼロたとしてみよう -- として、オイラー方程式をみる。でもこれは単純な流れ(定常パイプ流)を記述しておあらず実験と矛盾する。熱力学が適用できるなら、全エントロピー変化は非負でないといけない。この条件を満たす、応力とその他のエネルギーカレントを考える。空間変化について最低次だけの寄与という要請をおくと、これらの局所保存場の依存性が一意に決定される! そして、輸送を特徴づける正のパラメータが3つ導入されることが分かる。で、その他のエネルギーカレントして割り当てたものが「熱」だったことが分かる。(ここで、その他の寄与がない、といった学生に絡んで、彼から熱という言葉をひきだそうとしたが、中々でなかった。)輸送のパラメータは物質固有の量なので、ある実験でこれら3つのパラメータを決めてやれば、他のどんなフローにも適用されるはずで、強力な予言可能性をもつ。

もっとも単純で明晰な理解だと僕は思っている。この論旨を完全に理解したのは2011年の地震があったころである。あのとき、流体力学の理解のチュートリアルみたいな会が予定されていて、そのときにそれまでもやもやしていた論旨の流れを整理したのである。結局、地震の影響で中止を決定して流れてしまった。その後の講義には反映されているが、クラッシュコースとして話をしたのは今日がはじめてだった。インドでこれを話すとはなぁ。既に流体力学を知っている人にも全然知らなかった人にも大変好評だった。流体方程式を知っていても、正しい完全な流体方程式を書ける人はそうおらず、ある学生は「自分のしっているのと違う」と言っていたが、勿論、僕が説明したのが一般的であり、彼のが特殊な場合だけ正しいのだった。(それが分かったときの学生の顔は...)